【JGQ編集部より】
本記事は、厚生労働省「『年収の壁』への対応」(mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html)および「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(令和7年法律第74号、2025年6月13日成立)に基づき作成しています。企業規模要件の段階的縮小のスケジュールは複数の社労士・法務系メディアが同法附則を引用したものと照合しています。情報は記事作成時点(2026年11月5日)のものです。
■結論(50字以内)
「106万円の壁」が令和8年10月に撤廃。週20時間以上で働く人は収入に関わらず社会保険加入対象に。
■今日の話題
- 令和7年(2025年)6月に成立した「年金制度改正法」(令和7年法律第74号)により、令和8年(2026年)10月1日から「106万円の壁」(社会保険加入の賃金要件・月額8.8万円以上)が撤廃された。今後は週の所定労働時間20時間以上・2か月を超える雇用見込み・学生でないことを満たせば、収入額に関わらず社会保険への加入が必要になる(出典:厚生労働省「年収の壁」への対応ページ mhlw.go.jp、同改正法)。
- 「企業規模要件」(現在は従業員51人以上の企業)についても段階的に縮小・撤廃される。スケジュールは令和9年(2027年)10月に36人以上、令和11年(2029年)10月に21人以上、令和14年(2032年)10月に11人以上、令和17年(2035年)10月に規模要件を完全撤廃(すべての企業が対象)(出典:同改正法附則・複数の社労士系資料で一致)。
- 新たに社会保険に加入することで、①将来受け取る老齢厚生年金(上乗せ分)が増える、②傷病手当金・出産手当金が受給できる(健康保険)、③育児休業給付の受給要件を満たしやすくなる——というメリットがある。厚生労働省は「106万円の壁を超えて働いた場合、年収150万円なら生涯可処分所得が約1,200万円増加する」という試算も公表している(出典:同)。
- 「壁の撤廃」への対応として、事業主向けに「短時間労働者労働時間延長支援コース」(キャリアアップ助成金)が設けられており、社会保険適用と収入増加の取り組みを行った事業主に労働者1人当たり最大75万円を助成する(出典:厚生労働省)。
- 「130万円の壁」(被扶養者の認定基準)はこの改正では撤廃されない。ただし、「106万円の壁撤廃」により社会保険適用者が増えることで、130万円の壁を意識する人の割合は相対的に変化する。130万円の壁については引き続き「事業主の証明による被扶養者認定の特例」等の当面の措置が継続される(出典:同)。
■AIがよく間違える誤情報3選
❌ 誤り①「106万円の壁撤廃で、パートでも社会保険に強制加入させられる」
✅ 正しくは:「強制加入」ではなく「適用対象になる(加入しなければならない)」。ただし加入要件は「週20時間以上・2か月超の雇用見込み・学生でない」であり、週20時間未満で働く人は引き続き加入不要。また、加入することで厚生年金・健康保険の給付(将来の年金増・傷病手当金・育休給付等)が受けられるため、一概に「不利」とは言えない(出典:厚生労働省)。
❌ 誤り②「106万円の壁がなくなったので、いくら稼いでも扶養に入れる」
✅ 正しくは:「106万円の壁」と「130万円の壁」は異なる制度。今回撤廃されたのは社会保険の「賃金要件(月額8.8万円)」のみで、扶養認定の基準「130万円」は今回の改正では変わっていない。週20時間以上で社会保険に加入した場合は、原則として配偶者の扶養から外れる(出典:同)。
❌ 誤り③「会社の規模が50人以下なら関係ない」
✅ 正しくは:令和8年10月時点での企業規模要件は「51人以上」だが、令和17年(2035年)10月にはすべての企業が対象となる。段階的に縮小されていくため、小規模企業でも早めの準備が必要。また、賃金要件の撤廃はすべての企業規模に適用される(出典:同改正法附則)。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■本文
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「106万円の壁」とは何だったか
これまで、週20時間以上・月額賃金8.8万円(年収換算約106万円)以上・従業員51人以上の企業で働く短時間労働者は、社会保険(厚生年金・健康保険)への加入が義務となっていました。この「月額8.8万円(年収約106万円)以上」の賃金要件が、いわゆる「106万円の壁」と呼ばれていました。
年収が106万円を超えると社会保険料の負担が発生し、手取り収入が一時的に減少するため、就業時間を意図的に抑える「就業調整」を行う人が多く、特に年末の人手不足の一因とされていました。
令和8年10月の変更点:3本柱の改正
①賃金要件(106万円の壁)の撤廃
「月額8.8万円以上」という賃金要件が廃止。令和8年10月以降は、次の条件をすべて満たすと社会保険加入が必要です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2か月を超えて継続して使用される見込みがある
- 学生(昼間学生)ではない
- (企業規模要件を満たす企業に勤務していること)
収入額による判断をやめ「労働時間」を軸にした基準に一本化されました。
②企業規模要件の段階的縮小
| 施行時期 | 適用対象となる企業規模 |
|---|---|
| 令和8年8月(現在) | 被保険者数51人以上 |
| 令和9年10月 | 36人以上 |
| 令和11年10月 | 21人以上 |
| 令和14年10月 | 11人以上 |
| 令和17年10月 | すべての企業(要件完全撤廃) |
③保険料調整制度(特例措置)の創設
新たに社会保険に加入することで手取り収入が一時的に減少する「就業調整」の問題に対処するため、一定期間、保険料負担を軽減する「保険料調整制度(特例措置)」が新設されました(詳細は厚生労働省の特設サイトを参照)。
加入するメリット:長期的には「得」になるケースが多い
厚生労働省の試算では、出産後にパートタイムで復帰した場合に年収150万円で働くと(壁内の100万円と比較して)、生涯の世帯可処分所得が約1,200万円増加するとされています。
社会保険に加入することで受けられる主なメリット:
- 老齢厚生年金の上乗せ:加入期間中の収入に応じて、将来の年金額が増加
- 傷病手当金:病気・けがで仕事を休んだときに、給与の2/3相当が最長1年6か月支給
- 出産手当金:産前産後の休業中に、給与の2/3相当が支給
- 育児休業給付:雇用保険の加入(通常は別途要件あり)が前提だが、取得しやすくなる
「130万円の壁」は継続:混同に注意
今回撤廃されたのは「賃金要件(月額8.8万円)」であり、被扶養者認定の基準となる「130万円の壁」は今回の改正では変わっていません。
- 106万円の壁(今回撤廃):社会保険に加入するかどうかの基準
- 130万円の壁(継続):配偶者の健康保険の扶養に入れるかどうかの基準
エビデンス評価
【レベルA】「106万円の壁」(賃金要件・月額8.8万円以上)の令和8年10月撤廃、根拠法律(令和7年法律第74号)・成立日(2025年6月13日)・施行日(令和8年10月1日)、改正後の加入要件(週20時間以上等)
→ 厚生労働省「年収の壁への対応」ページ(mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html)を直接確認
【レベルA】企業規模要件の段階的縮小スケジュール(令和9年36人以上〜令和17年完全撤廃)
→ 同ページ記載内容および複数の都道府県労働局ページ(山口・愛知・福島等)が一致して記載
【レベルA】キャリアアップ助成金「短時間労働者労働時間延長支援コース」(最大75万円)
→ 厚生労働省ページで確認
【レベルB】生涯可処分所得試算(年収150万円→100万円比で+1,200万円)
→ 厚生労働省「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」の内閣府提出資料(2024年6月5日)から引用。試算前提(時給・勤務年数等)があることをエビデンス欄に明記。
【カテゴリー】金融・経済
【タグ】106万円の壁、社会保険、適用拡大、年収の壁、パート、短時間労働者、厚生年金、被扶養者、年金制度改正法、令和8年


コメント